毎日のように一緒にいてよく飽きないね、と友達に言われた。高校からの付き合いなんでしょう? 同じ大学選んで進学して、もう五年とか六年とか一緒にいて、同棲同然で一緒にいて、飽きない? そう聞かれた、というか、言われた。
(飽きないの、飽きるわけがない。だってわたしは、“昔の”総司さんのこの頃を知らないもの)
 “昔”出逢った時、すでに彼は二十を超えていた。激動の時代のまさに只中で生きていたから、精神年齢的にはもっと上だったろう。
 彼は強くて、飄々としていて、確固とした信念を持っていた。最後の最後まで、何事に対しても諦めることなく立ち向かい、その生をまっとうした。
 その生き様を、は一番近くで見ていた。最初から見ることは適わなかったけれど、最期まで見届けた。悲しくて悲しくて辛くなるほどだったけれど、傍にいた。
 嬉しいこともたくさんあったけれど、心穏やかに過ごせたことは少ない。
 だから、“いま”彼の傍で彼が笑っている顔を見られるのは、とても幸せなのだ。飽きることなどない。まだ足りないくらいだ。
……眠くなっちゃった?」
 こたつにもぐりこんで、くっつきながらテレビを見ていたら、寄りかかったまま動かないを訝しんでか、総司が尋ねてきた。顔を動かして相手を見上げながら、いいえ、と素直に答えたが、総司はなぜか見ていたテレビをいきなり消して、を抱きしめてきた。
 どうしてそんなに真面目な顔をしているのだろう、とぼんやり思っていると、総司は言った。
、卒業したらさ、結婚しよう。もう少し広い部屋借りるから。二人で暮らそう」
 いつもと違って少し自信のない低い声だったから、繰り返してきた“予定”の話ではなく今度こそ本気なのだ、とすぐにわかった。今まではそうだね、そうしようね、と相槌を打ってきたが、言葉が出てこない。嬉しいはずなのに、喜びが湧き上がってこない。
 硬直しているに総司も気づいて、抱きしめていた腕をほどいて、の顔を覗き込んできた。
「プロポーズしたつもりなんだけど、返事は無し?」
「はい……。でも……」
「でも?」
「……でも、まだ……早いかなって」
「そりゃまだ二十二だけど、来年はお互い社会人だし、六年の付き合いって短くはないでしょ。大体僕ら、普通とは違うんだし。そんなに早いとは思わないけど」
「それはそうだけど……」
 は言いよどんだ。今の総司は二十二歳。段々、が一緒に生きた時期の彼と似てきた気がする。
 十代の総司は昔出会った頃の彼より優しくて、甘えん坊だったが、年をとるほど顔も性格も、少しずつ精悍になってきて、背筋が伸びて、の手が届かないほど立派に見えるときがある。
 土方は買いかぶりだ欲目だと言うけれど、は不安なのだ。学生のうちは二人で過ごす時間がいっぱいあった。お互いのことだけ考えれていればいい時期もあった。
 でも社会人になったら違うのだ。日中は一緒にいられない。そうして離れている時間が増えるうち、総司が“また”どこか遠くに行ってしまうような気がする。
。親や千鶴ちゃん達と離れるのが不安なのはわかるけど、僕だって学生終わるまでは同棲も結婚も待ったんだから、これ以上待たせないでよ」
 少し強く言われて、泣きそうになる。の目が潤むと総司はすぐに察する。をふたたび強く抱きしめて、泣かないでよと頭を撫でてくれた。
「そうやって僕の知らないところでも泣いてるから、早く結婚しようって言ってるんだよ」
「泣いてなんか……」
「隠したいならお節介な人に相談するのやめなよ。はそんなにはやく僕に死んでほしいの?」
「違うっ」
「そうじゃないなら、信じてよ。少なくとも“今の”僕は健康体で、すぐには死なない。それでも怖いの」
「わたしを置いて逝ったのは、総司さんじゃないですかっ」
「……うん、ごめんね。許してって“昔”お願いしたけど……許せるわけないよね。一人にしてごめんね」
 途端に、総司が“死んだ”ときのことが思い出されて、涙が出た。
 羅刹になって、死を迎えて灰となり散っていくのを見ているしかなかったのは、辛かった。思い出すたび辛かった、今も、昔も。――でも。
「許してましたよ……。許せないことなんて一つもなかった……。だから、ずっと一緒にいたんじゃないですか」
 辛かった。寂しかった。でも、総司が決めた生き様を否定できなかった。彼が何を考えてそうしたのか、どれくらいのことを想っていてくれたのかは、ちゃんと知っていた。
 だから責められなかった。彼は精一杯生きた。辛くても寂しくても、今度はそれを受け止めて精一杯生きるのが、の彼への餞(はなむけ)だった。
「うん……ありがとう。今度は許さなくていいから」
「許しません。一度だけで十分です。わたしより先に死んだら許しませんから! 九十くらいまで生きてくださいね!」
「結婚しようって言ってるのに、もうそんな話?」
 少し呆れながらも、総司は「わかったよ、約束」と手をつないで答えた。
「だから、結婚してくれる?」
「……よろこんで」


怖 気 づ き な が ら 繰 り 返 す の は な に
( 今 度 こ そ 一 緒 に 生 き よ う )




「ていうか土方さんと二人で会うのやめて」






前世ルートは、ゲームのBADEND・お姉ちゃんverという感じです。
現世は早くから一緒に暮らして過去の分も埋めれたらいいなぁと思います。
同世界の二年後くらいで、別ヒロインで一くんの話が書きたい。

14.2.19.
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