※チルドレンが中学生時期。ヒュプノではなく、いろいろあってどくいつの彼みたいに身体が急成長しました。




 本来なら数年かけて行われるはずの“成長”を数ヶ月で劇的に進めたは、もうどこから見ても“中学生くらいの女の子”ではなかった。
 激変した外見に仲間たちは全員驚いたが、様々な能力を知っている大人たちは比較的素直に受け入れた。“ああ、本当に自分と歳が近かったのか”という実感が、視覚的にも得られた程度だ。
 子供たちは“本当に同一人物なのか”といまだにおっかなびっくりなところがあり、のことを遠目から観察したり、近づいていって悪戯まがいのことをしたりと、毎日色々しているが、は性格上それらのことを気にしていない。
 兵部と真木と紅葉は、みんなと同じように驚きはしたが、真っ先に“安心”したメンバーでもあった。
 兵部に偏執するあまり自分の時間を止めていただが、ようやく子供の殻を破って生きていく気になってくれたのか、と思ったのだ。
 しかし彼らにとっては意外にも、葉がのこの変化にすぐに適応できなかった。
「葉、仕事」
「……やだよ、めんどくせぇ」
 に声をかけられた葉は、心底嫌そうな顔をした。葉がにこういう態度をとるのは珍しい。あまりにひどい顔だったので真木がたしなめるように「葉」と強く名前を呼んだら、口をへの字にしてそっぽを向いた。
「葉、仕事してこい」
「ヤだね」
 小生意気な返事にいつもはイラつくところだが、今回は違う。が不安そうに葉を見つめ、葉はそんなを見ないようにしている。それを見守るしかない真木は、ため息を吐きたい気分だった。
 は、外見こそ一気に七歳ほど成長したものの、中身は変わらない。
 けれども、今までは幼げな顔でぼうっとして見えていたものが、大人の外見になってからは思慮深いかのように見えてしまうから不思議だ。実際、兵部のためにもっと大人になろうと頑張ってはいるのだろうが――。
 は何を怒っているのと言いたげな顔だったが、口にはしなかった。しばらく目を合わせない葉を見つめたあと、諦めて真木を見た。
「真木さん、わたし、九具津さんとカガリ連れて行ってきます」
「ああ」
「はぁ!?」
 真木の了承の返事と、葉の不満大爆発な声が重なる。と一緒に葉を振り返ると、葉はバツが悪そうな顔でまたそっぽを向いてしまった。
 葉がそれ以上何も言わないので、は行ってきますと淡々と告げ、部屋から出て行った。葉の不機嫌オーラを黙殺することにしたらしい。
「気をつけていけよ」
 真木がそう言って送り出してから三分もしないうちに、葉はテーブルに肘をつきながら、グチグチと誰にともなくつぶやき始めた。
「なんでだよ……くそ、面白くねえ……」
 ガン、ガン、と不規則にテーブルを蹴ったり拳を振り下ろしたりしながら、葉は不機嫌そうな声を漏らしつづける。真木の耳に届いてはいたが、一切応じなかった。
 ずっと放っておいたら、予想通り葉の方から話しかけてきた。長く一緒にいるから、大抵の行動パターンは読めるのだ。
「……なぁー、真木さん。どう思う……?」
「何がだ」
「だから……が……急に、あんな……」
 もごもごとそこまで言って、葉は黙り込む。見ればこちらに身体の正面を向けて座っており、本気で真木からの返事が欲しいらしいと察することができた。
「どうも何も、当たり前の姿になっただけだろう。見た目が成人済みなら頼める仕事も増える」
「ガキのまんまでも、あれはあれで仕事上便利だったじゃん?」
「ごく稀にな。能力の使い方、本人の気の持ちよう、どれをとっても今が最善だ。俺はいい変化だと思ってる」
「あのつるぺたの胸で?」
 返された言葉に、真木はずっこけそうになった。思わず「はあ?」と大きな声で聞き返す。葉は大いに不満のある顔で言ってのけた。
「いま二十くらいの体なんだろ? 見たかよあの胸。今までガキだと思ってたからどうでもよかったけど、大人になってもあんな体型だなんてすげーがっかりだろ」
「知るか! アホかおまえは!」
 思い切り罵声を浴びせる。てっきり今まできょうだい同然に育ってきた家族が急に大人になってしまって、中身が子供の葉としてはいろいろと複雑なんだと思っていたのに、ピンク思考まっしぐらである。
「え? 真木さんだってほんとはそう思ってんだろ? マジかよこいつ、だったら子供のまんまでもよかったーてか変わんねえとか思ったろ?」
「な訳ないだろう!」
「俺はこんな悲しい現実知りたくなかったね。あいつずっとガキの見た目のまんまだったから、伸びしろがどうとか考えたことなかったけど……そうだよな、年取りゃ誰でも育つってもんでもねえよな」
 ふう、と葉は哀愁漂う顔でため息を吐く。
「グラドルの明石好美とまではいかなくてもよー、せめて紅葉ねえくらいは……」
 と、自分の平たい胸の前に何かがあるような手つきで葉は眉を寄せる。下品な弟分をとりあえず殴り倒し、真木は説教をかました。
 外見ばかりすくすく育ったがやる気のない葉と、外見こそ子供のままでも責任感は年相応に持っているを比べれば、の方がかわいい妹分だ。おまえもいい加減に真面目に仕事をしろと怒鳴りつけたが、葉はそれを半分ほどしか聞いていなかった。真木に自分との違いを比べられれば比べられた分だけ、浮き彫りになる。
 そうだ、昔から一緒で、きょうだいみたいな関係で、それ以上になりようがなく、それ以下になるはずもなかった。
 でも、それ“以外”になることは、思ったよりもずっと簡単だった。
 それに、今の今まで気づかなった。
 少佐がいて、真木がいて、紅葉がいて、がいて、マッスルがいて――家族と、増えていった仲間たちが傍にいる生活が、当たり前だった。
 はずっとずっと子供のままで、葉のおもちゃで、妹分だった。だから中身が同じだろうが、気軽に抱きかかえられないサイズ、明らかに今までとは違う曲線の体になってしまったなど、葉は知らない。
「ねえわ……マジねえ……なんで俺があんなぺったんこ……」
 思わず呻く。何か言ったか、と眉尻を吊り上げる真木に「いいえー」と適当に答えているところへ、兵部が顔を覗かせた。
「おーい、真木。知らないかい?」
「少佐……なら仕事ですよ」
 真木の渋い顔を見た兵部は、へえ、と相槌を打ちながら葉と真木を見比べて、首をかしげた。
「で、何してるんだ?」
「いつまで経っても小学生男子みたいなことやってる馬鹿に説教中です」
「誰が小学生男子だ!?」
「おまえだ! 自覚しろ!」
「ちげぇだろ!? 小学生男子じゃねえからこその目の付け所だろうが! あ、それか、乾ききった真木さんにはわかんねえのかなぁ」
 何の話だよ、と呆れている兵部に、真木が簡潔に事態を伝えたとたん、兵部はもっと呆れた顔になってため息を吐いた。
「くだらない……」
「なんだよ。ロリコンジジィだって、内心残念なんじゃねえのー? 可愛がってたがあんなにでかくなっちゃって。それともつるぺただから、少佐的にはあんま変わんねえの?」
「おまえと一緒にするな。僕はの成長を嬉しく思ってるよ。大体、の胸が大きかろうが小さかろうが、別におまえに関係ないだろ、葉。それとも揉む予定でもあるのか」
「バ……ッ!」
 底意地の悪い年寄りの発言を咄嗟に聞き流せず、言葉に詰まる。ギョッとしたのか、ギクッとしたのか、自分でもわからない。
 真木は明らかにギョッとした顔で葉を凝視したあと、いきなり詰め寄ってきた。
「葉、おまえはしばらくに近づくな」
「なんでだよ!?」
「鏡を見て来いよ」
 にやにやと笑いながら、兵部が葉の顔を指差してくる。思わずばっと腕で顔を隠すと、兵部の目はさらに楽しそうで意地悪な逆三日月型になった。
「まさかおまえがねぇ。へえぇぇ」
「っ、うるせぇ、ロリコンジジィ! ていうか、ちげぇ!」
 叫んだが、時すでに遅し。兵部と真木の顔を見る限り、自覚と同時に露見した思いを知られたのは明白だった。


露  見  し  た  醜  態  の  別  の  名  は
( 恋なんて綺麗なものじゃない )








 欲情から執着心に移っていく葉がクソでいいかなって…笑。
 急成長=生体コントロール。裏設定:少佐に知られないよう生体コントロールを賢木にいろいろ教えてもらってたので、その後賢木と比較的仲良くするに、葉が怒るとか賢木に嫉妬するとかもオイシイなと思ってます。
2014.2.18.

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